第一話 高校一年、最後の旅行
高校一年の冬休み。
私、古城戸ミズキは小学の頃からの友人たち2人と二泊三日の旅行をしていた。
温泉、卓球、雪、古い温泉街の素敵な街並み・・・、温泉旅館での二日は一瞬で過ぎ去った。
高速バスの帰路、私は窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。
(楽しかったけど・・・、)
「疲れた・・・・・・」
ついついため息とともに言葉が口から転がりおちた。
と、瞬間肩をつかまれる。いつも通り無駄に元気なユウ。
「こら! ミズキ~~! 旅はまだ始まったばっかりだぞ!
疲れた感出してる場合じゃないぞ!!」
「始まったばっかりって、もう帰るだけでしょ?」
ユウの元気っぷりには呆れてしまう。
「・・・ユウの言うとおり。まだサービスエリアが残ってる」
フシギ系で読書家のリンは、真逆の性格のユウと意外と気が合う。
「そうだぞ! 次のサービスエリアはどんなのかな~~?
おトイレきれいだといいな!」
「はいはい、そうですね~」と、私。
「ところでリン! 何を読んでるんだ~?」
私越しに身を乗り出してリンに話しかけるから目の前がユウの体で塞がってじゃまくさい。
リンは相変わらず本を読んでいる。
旅行中も、風呂の中で、卓球しながら、雪だるまを作りながら、素敵な街並みを見ながら、つねに本を読んでいた。
「・・・これはジョージ・オーウェルの『動物農場』。いろんな動物が出てきてかわいいからユウにもおすすめ」
「面白そうだ! あとで貸してほしいぞ~!」
「あんたはどうせ読まないでしょ」
「・・・そういう否定的な決めつけが子供の成長を妨げる」
「たしかに私が悪かったわ。そうね、ユウは子供だもんね。
でもジョージ・オーウェルって『1984』のでしょ? 絶対ろくでもない話よね」
「・・・否定はしない」
「ジョージ・オーウェルだって言ってるでしょ」
「・・・村上春樹はたぶん本名」
「ほらな! ユウの勝ちだ!」
勝ち誇るユウに呆れて言葉も出ない。
「カサネ! 次のサービスエリアまであと何分だ?!
ちょっと・・・やばいかもだ!」
「やばいって、ちょっとユウ?!
なんでさっき行かなかったの・・・」
「さっきは全然大丈夫だったのだ!」
「待ってね、今確認するから――」
――私たちが次のサービスエリアに到着することは無かった。
この旅行が、ユウとリンにとって最後の旅行になったから。
そしてこのバスが、二人の棺桶になったのだから。
ああ、でも、私にとっては最後じゃないかもしれないな。
幸いなことに/不幸なことに、私だけは生き残ってしまったから。