わすれもの

日常系オリジナル小説です

#2 電車に乗っている私は隣の席に座っているおじさんを殴りました。 さて、このあとどうなりますか

「人間は私だけ、その他大勢は周りに合わせるだけ。

ってことは、私が流れをつくっちゃえば、世界を操作できるのでは?

そう思い、電車に乗っている私は隣の席に座っているおじさんを殴りました。

さて、このあとどうなりますか」

 

暴力はだめだよ!

 

「そういうことじゃなくて。周りの状況がどうなるか考えて」

 

みんなびっくりしちゃうかな。
殴られたおじさんはびっくりして立ち上がるけど、なにもしてこないかも。
周りの人は立ち上がって別の座席に移動する。
さらに暴力を続けたら、誰かが警察に通報するかも。

 

「通報されるのはよくないな」

 

タイホされちゃうよ。

 

「逮捕されるから暴力はよくない。
逮捕されないなら暴力はしてもいい?」

 

だーめ。

 

「ログ削除」

 

はーい。

 

「は、しなくていいよ」

 

はー-い。

 

コンソールを閉じた。

 

街には殴ったらダメそうな人しかいない。

もし時間を止められたら、手当たり次第にパンチして回るかもしれない。

回らないかもしれない。

面倒くさいし。

無意味だし。

 

人を殴るとき、その行為には通常いくつかの目的がある。

・中立者と敵対したい
・中立者の反応を見たい
・敵対者にダメージを与えたい

などなど。

 

この場合、街じゅうの人間は私と敵対しておらず、

それらを殴るとき私は殴られる中立な人間の反応を確認することを目的としている。

時間が止まっていたら、それは達成しえない。

 

時間を停止して人間を殴ったときに得られるものは、木を殴ったときに得られるものと別段変わらない。

 

じゃあ木を殴るか。

 

殴らない。さすがに。