2023-01-01から1年間の記事一覧
「『考えない葦』が『考える葦』である状態を維持する方法を見つけた。 『ピストルと弾丸』『致死量の向精神薬』『包丁』あるいは『ビルの屋上』。 そういう、命を失おうと思い、決心すればすぐさま実行できる手段、それを手元に保持しておくこと。 それが人…
「人間は私だけ、その他大勢は周りに合わせるだけ。 ってことは、私が流れをつくっちゃえば、世界を操作できるのでは? そう思い、電車に乗っている私は隣の席に座っているおじさんを殴りました。 さて、このあとどうなりますか」 暴力はだめだよ! 「そうい…
「この世界には人間がいない。わかるでしょ?」 わかんない・・・。 「誰も何も考えていない。ただただ周りに合わせているだけ」 うーん。 「周りに合わせているだけなら、外部の環境を反映しているにすぎないなら、それは風を受けて揺れる木々となんらかわ…
「うーん、例の『原因について』、考えてみただけどやっぱりちょっと違う気がする」 「へえ」 「たしかに、人間性がそうなる原因を親のせいにすることは誤りだとおもうよ。 でも、だからといって原因は自分にあるって言うのは違うと思う」 「そう?」 「あの…
「近頃、父親にブチ切れる夢を繰り返し見るんだ」 「うん」 「怒りが怒りを呼んで、とどまるところを知らなくて、我を忘れて、 何かを破壊したくて仕方がなくなる、そんな夢」 「うん」 「それはある意味仕方がないと思うんだ」 「どうして?」 「私が<こん…
雑踏の中をあたしたちは歩いていた。 雑踏。 あたしにとっては。 透明人間が街にあふれていた。 相変わらず触れられないし、声も聞こえない。 それでも活気があることは十分にわかった。 それはともかく、あんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだ。 『裸…
わたしとなずなは街を歩いていた。 道路も壁もぜんぶまっさらだった。 新しくできた道を散歩した時を思い出した。 黒いアスファルト。 白い電柱。 わりと、好きだ。 街にはわたしとなずな以外誰もいなくて、 わたしたちのための街って感じがした。 普段人で…
「なずな、ママに『原因』聞いたら『いい加減なことばっかいってはぐらかし』てきたって言ったよね。 あれ、『いつの間にか消えていた』、みたいな内容だったり、する・・・?」 「正解。同じこと考えてた」 この世界が思ったよりも新しいことに気づいたのは…
「今日、休み多くない?」 「もうインフルの季節だっけ?」 そんな会話が聞こえる。 今日の欠席者は5人。 インフルが流行っているという話は聞かないが・・・。 欠席者は日が経つにつれ増えていった。 欠席の理由について教師は何も話さなかった。 ただただ普…
「ありがとうございました~」 茶髪にピアス。 威圧感を覚える容姿に気おされるわたしと、にこやかな笑顔と朗らかな声の店員さん。 この人に一本道ですれ違うことになったら、わたしは思わず気配を消そうと無駄な努力をしてしまうだろう。 そういう人でさえ…
なんだかんだ3時間歌ってほどよく疲れたわたしたちは忘れないように伝票を持って部屋を出る。 「ん?」 なずなが立ち止まる。 「なんだろ」 受付はなんだかちょっとだけ騒がしかった。 「ちょっと待ってて」 なずなはぼうっと立っている人に声をかけた。 「人…
「それで・・・その、『原因』が何かは聞いたわけ?」 なずな。幼稚園の頃からの友だち。 「うぅん。ママ『わかんない』ばっか」 首を左右に振るわたし。 フリータイム。 入室から二時間、小休憩。 「だよね、いい加減なことばっかいってはぐらかして。子ど…
リュックサック。モバイルバッテリー。充電ケーブル。財布。替えの衣服。ゴミをいれる用の袋。折り畳み傘。懐中電灯。日焼け止め。タオル。 「忘れ物を取りに行く」 その言葉、頷いてしまったときにはもう遅かったようで、旅の準備は恐るべき手際の良さで整…
「冒頭30分くらいお猿さん見せられたんだけど・・・」「はい・・・」 日々。 「冒頭の長回しの臨場感、すさまじかった」「まさに戦場ですよね」 ゆっくり、しかし確実に過ぎていく平坦な日々。 「あの臓物巻き取るシーンきつすぎなんだけど」「うう・・・」 …
登校初日。 通学に利用するバスを目の前にして ユウとリンの散らばった四肢を思い出した。 私は嘔吐し、倒れた。 登校二日目。 代替手段として乗った電車の中。 左隣にはユウが、右隣にはリンがいる気がした。 私は嘔吐し、倒れた。 登校三日目。 私は部屋か…
問題。 両親の愛を独り占めしていた姉がこの世を去った今、 私はその愛を代わりに受けることになったか。 回答。 いいえ。 両親の愛は姉とともに喪われてしまった。 西風ユウが死んでから、両親の関係は冷え込み喧嘩が絶えなくなった。 彼らは決して口に出さ…
姉のことは好きじゃなかった。 姉は明るくて、元気で、誰からも好かれていた。 馬鹿っぽい言動をしてるくせに勉強はしっかりできるし、 運動も得意で部屋に飾られたトロフィーや賞状の数を数えるには少し骨が折れる。 そんな姉を両親はとても愛していた。 一…
「ただいま~」 「我が家」に帰った時には言わない言葉を、ミズキの部屋を訪れるときには口にすることが当たり前になっていた。 「おかえり」 「宿題はちゃんとやりましたか?」 「うん。ちゃんと観たよ。 難解だったけど面白かった。夢の中でさらに夢を見る…
古城戸ミズキの部屋。 暗い。 比較的整っているが、掃除が行き届いているというよりはまだ散らかっていないだけという雰囲気。 当然だろう。古城戸ミズキがこの部屋で暮らし始めてからまだ一年経っていないらしいから。 ゴミなどもない。旅行前日にゴミ出し…
バスは深い霧の中を走っている。 左隣にはユウが、右隣にはリンがいる。 「*******! *****、*******?」 ユウが話しかけてくる。声は聞こえるのに聞き取れない。 「********」 リンの声。聞き取れない。 「あ、あはは」 乾いた笑いが漏れる。 怪訝な顔をする…
古城戸ミズキ。 姉の友人。 凄惨な事故の唯一の生還者。 姉の命を奪った交通事故。 (まずったな・・・ 退院の日、なんで聞かなかったんだろう) 電話、メッセージ、DM、全て反応がない。 古城戸ミズキは無事だろうか。 たまたま今日が退院日でよかった。 気づ…
一か月と一週間ぶりの我が家。 まるで私が帰ってくることを拒むかのように、暗い。 (帰ってこなければよかった) (生きて還れなければよかった) 「私なんて・・・」 玄関に佇む私の口から小さな声が漏れる。 誰にも聞かれることなく虚ろに吸い込まれて消えた…
深い深い海の底。 漂うあぶく、三つのあぶく。 やがてあぶくのうち二つは水にとけてしまう。 残った一つはやがて水面にたどり着き―― ――そして私は病院で目を覚ました。 「・・・これ以上もう、思い出せない」 「仕方ないですね。今日はもういいです。 また今…
高校一年の冬休み。 私、古城戸ミズキは小学の頃からの友人たち2人と二泊三日の旅行をしていた。 温泉、卓球、雪、古い温泉街の素敵な街並み・・・、温泉旅館での二日は一瞬で過ぎ去った。 高速バスの帰路、私は窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。 (楽し…