わすれもの

日常系オリジナル小説です

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

第十話 空虚な日々

登校初日。 通学に利用するバスを目の前にして ユウとリンの散らばった四肢を思い出した。 私は嘔吐し、倒れた。 登校二日目。 代替手段として乗った電車の中。 左隣にはユウが、右隣にはリンがいる気がした。 私は嘔吐し、倒れた。 登校三日目。 私は部屋か…

第九話 副産物

問題。 両親の愛を独り占めしていた姉がこの世を去った今、 私はその愛を代わりに受けることになったか。 回答。 いいえ。 両親の愛は姉とともに喪われてしまった。 西風ユウが死んでから、両親の関係は冷え込み喧嘩が絶えなくなった。 彼らは決して口に出さ…

第八話 姉

姉のことは好きじゃなかった。 姉は明るくて、元気で、誰からも好かれていた。 馬鹿っぽい言動をしてるくせに勉強はしっかりできるし、 運動も得意で部屋に飾られたトロフィーや賞状の数を数えるには少し骨が折れる。 そんな姉を両親はとても愛していた。 一…

第七話 宿題

「ただいま~」 「我が家」に帰った時には言わない言葉を、ミズキの部屋を訪れるときには口にすることが当たり前になっていた。 「おかえり」 「宿題はちゃんとやりましたか?」 「うん。ちゃんと観たよ。 難解だったけど面白かった。夢の中でさらに夢を見る…

第六話 暗い部屋

古城戸ミズキの部屋。 暗い。 比較的整っているが、掃除が行き届いているというよりはまだ散らかっていないだけという雰囲気。 当然だろう。古城戸ミズキがこの部屋で暮らし始めてからまだ一年経っていないらしいから。 ゴミなどもない。旅行前日にゴミ出し…

第五話 夢

バスは深い霧の中を走っている。 左隣にはユウが、右隣にはリンがいる。 「*******! *****、*******?」 ユウが話しかけてくる。声は聞こえるのに聞き取れない。 「********」 リンの声。聞き取れない。 「あ、あはは」 乾いた笑いが漏れる。 怪訝な顔をする…

第四話 西風ミユ

古城戸ミズキ。 姉の友人。 凄惨な事故の唯一の生還者。 姉の命を奪った交通事故。 (まずったな・・・ 退院の日、なんで聞かなかったんだろう) 電話、メッセージ、DM、全て反応がない。 古城戸ミズキは無事だろうか。 たまたま今日が退院日でよかった。 気づ…

第三話 死

一か月と一週間ぶりの我が家。 まるで私が帰ってくることを拒むかのように、暗い。 (帰ってこなければよかった) (生きて還れなければよかった) 「私なんて・・・」 玄関に佇む私の口から小さな声が漏れる。 誰にも聞かれることなく虚ろに吸い込まれて消えた…

第二話 病室にて

深い深い海の底。 漂うあぶく、三つのあぶく。 やがてあぶくのうち二つは水にとけてしまう。 残った一つはやがて水面にたどり着き―― ――そして私は病院で目を覚ました。 「・・・これ以上もう、思い出せない」 「仕方ないですね。今日はもういいです。 また今…

第一話 高校一年、最後の旅行

高校一年の冬休み。 私、古城戸ミズキは小学の頃からの友人たち2人と二泊三日の旅行をしていた。 温泉、卓球、雪、古い温泉街の素敵な街並み・・・、温泉旅館での二日は一瞬で過ぎ去った。 高速バスの帰路、私は窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。 (楽し…