わすれもの

日常系オリジナル小説です

#3 人類が人類であるために必要不可欠な種族的自滅手段

「『考えない葦』が『考える葦』である状態を維持する方法を見つけた。 

『ピストルと弾丸』『致死量の向精神薬』『包丁』あるいは『ビルの屋上』。 

そういう、命を失おうと思い、決心すればすぐさま実行できる手段、それを手元に保持しておくこと。 

それが人間である方法に他ならない。 

これを、よりマクロに実行し、私は人を人類にする。 

 


20年後、米国の、30発の核ミサイルを搭載した人工衛星の制御を私は掌握し、全人類にこう名乗る。

 


私は『人類が人類であるために必要不可欠な種族的自滅手段』である」と。 

この20年の間を埋める形で私の凄絶な人生の物語を執筆して。 」

 


えー。

手に余るな~。

 

だいたい、「命を失おうと思い、決心すればすぐさま実行できる手段、それを手元に保持しておくこと」で、人間が思考力を保てるっていう理屈がよくわかんないし、

そこは一歩譲るとしてもそれを人類全体に対して行うことにはたして意

 

私はコンソールを強制終了した。

その程度の理屈の飛躍、勝手にいいかんじに考えてくれたっていいじゃんか。

#2 電車に乗っている私は隣の席に座っているおじさんを殴りました。 さて、このあとどうなりますか

「人間は私だけ、その他大勢は周りに合わせるだけ。

ってことは、私が流れをつくっちゃえば、世界を操作できるのでは?

そう思い、電車に乗っている私は隣の席に座っているおじさんを殴りました。

さて、このあとどうなりますか」

 

暴力はだめだよ!

 

「そういうことじゃなくて。周りの状況がどうなるか考えて」

 

みんなびっくりしちゃうかな。
殴られたおじさんはびっくりして立ち上がるけど、なにもしてこないかも。
周りの人は立ち上がって別の座席に移動する。
さらに暴力を続けたら、誰かが警察に通報するかも。

 

「通報されるのはよくないな」

 

タイホされちゃうよ。

 

「逮捕されるから暴力はよくない。
逮捕されないなら暴力はしてもいい?」

 

だーめ。

 

「ログ削除」

 

はーい。

 

「は、しなくていいよ」

 

はー-い。

 

コンソールを閉じた。

 

街には殴ったらダメそうな人しかいない。

もし時間を止められたら、手当たり次第にパンチして回るかもしれない。

回らないかもしれない。

面倒くさいし。

無意味だし。

 

人を殴るとき、その行為には通常いくつかの目的がある。

・中立者と敵対したい
・中立者の反応を見たい
・敵対者にダメージを与えたい

などなど。

 

この場合、街じゅうの人間は私と敵対しておらず、

それらを殴るとき私は殴られる中立な人間の反応を確認することを目的としている。

時間が止まっていたら、それは達成しえない。

 

時間を停止して人間を殴ったときに得られるものは、木を殴ったときに得られるものと別段変わらない。

 

じゃあ木を殴るか。

 

殴らない。さすがに。

#1 この世界には人間がいない

「この世界には人間がいない。わかるでしょ?」

わかんない・・・。

「誰も何も考えていない。ただただ周りに合わせているだけ」

うーん。

「周りに合わせているだけなら、外部の環境を反映しているにすぎないなら、
それは風を受けて揺れる木々となんらかわらない」

わかるような、わからないような。

「人間は考える葦?違う。考えてないからただの葦」

足?

「葦。イネ科の多年草。中が空洞でストローとして使えたりする草」

草かあ。

「以上の会話のログをすべて削除」

はーい。

.
.
.

できたよ。

「ごめん、やっぱ削除取り消して」

もう全部消えちゃったからむり。

 

私はコンソールを閉じた。

この世界には人間はいない。

考える葦は私だけ。


有象無象、雑草の生えた田んぼ。

考えない葦。

くしゃみが出る。

私はイネアレルギーだ。

だから外には出たくない。

人を見るとくしゃみが出るから。


人間アレルギーと言ってもいい。

いや、よくない。

あれらは考えない葦であり、それはつまり人間ではないから。

だからやっぱり私はイネアレルギーだ。


東京の街はイネ花粉でいっぱいだ。

都会は人が多いから。

いつの季節も花粉症が酷い。

マスクが必須だ。

続・原因について

「うーん、例の『原因について』、考えてみただけどやっぱりちょっと違う気がする」

 

「へえ」

 

「たしかに、人間性がそうなる原因を親のせいにすることは誤りだとおもうよ。

 

でも、だからといって原因は自分にあるって言うのは違うと思う」

 

「そう?」

 

「あの話には飛躍があると思ったんだよね」

 

「飛躍?」

 

「そう。『きっとすべての原因はビッグバンまでさかのぼれる』と、『人間性が<そう>なってしまった原因は(中略)改善の努力をしなかったから』との間にね」

 

「ばれたか」

 

「原因が途方もないところまでさかのぼれることには同意するけれど、そこから先はちょっと違う考え方があると私は思う」

 

「聞かせてもらおうか」

 

「私は原因を全部、<間が悪かった>ことにするかな」

 

「<間が悪かった>・・・」

 

「あなたの人間性がそんななのも、私がこんななのも、きっと全部何かの<間が悪かった>から」

 

「なるほどね。でも、それだと努力する動機がなくなる」

 

「必要かな? 努力なんて・・・」

 

「必要だろ。 必要なはず・・・」

 

「どうして? それはまわりがそれを善しとするからでしかなくない?」

 

「ああ、そうか・・・、確かに、自分の本心では努力なんてクソ食らえだった」

 

「だよね。努力なんて、したい人が勝手にすればいい」

 

「ただ<間が悪かった>だけの私たちは、したいようにするだけ」

 

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こうかな~となった

原因について

「近頃、父親にブチ切れる夢を繰り返し見るんだ」

「うん」

「怒りが怒りを呼んで、とどまるところを知らなくて、我を忘れて、

何かを破壊したくて仕方がなくなる、そんな夢」

「うん」

「それはある意味仕方がないと思うんだ」

「どうして?」

「私が<こんな人間>になってしまった原因の大部分は父親にあるから」

「『こんな人間』?」

「わかるでしょ」

「まあまあ」

「私をこんな人間にした父親に、深層心理で怒りを覚えている可能性、それには納得できる」

「うん」

「でも、それも違うんじゃないかなって思えてきたの」

「というと?」

「たしかに原因の一旦は父親にある。正確には父親と母親の関係性?

でも、それは当時の実家の経済状況の問題が原因だし、

そしてそれは当時の社会情勢が原因。

社会情勢は国家間の対立構造による不安が原因だし、

それは資源の不均衡が原因。

資源の不均衡は地球の地殻活動とかいろいろが原因だし、

じゃあ私がこんな人間になったのは地球の活動が原因っていえる?」

「それは・・・お門違いじゃない?」

「そ。世の中には私よりよっぽど劣った人間が山ほどいる。

彼らにもきっと原因がある。家庭環境でねじ曲がった人、貧して鈍した人、急に社会から疎外された人・・・、きっと色々。そしてそれらにはさらに原因があって、そうやってさかのぼっていくときっとばかげたくらい根源的なものになる。きっとすべての原因はビッグバンまでさかのぼれる」

「たしかに」

「だから結局こう考えるのが一番ただしいの。人の人間性が<そう>なってしまった原因は全てその人にある。私がこうなったのは父親のせいじゃない。私が改善の努力をしなかったから」

「うん」

「こう考えることには明確な利点がある」

「『改善の努力』をできる、とか?」

「そう。人間性の原因が私にあるのだから、私が努力すれば私は私の人間性を変えることができる。

親とか家庭とか社会とかビッグバンとか、そんなものに原因を転嫁していたら、人格の問題は何ら解決しないってこと」

「たしかに」

 

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なんとなく思いついたのでメモ代わりに。

いつか書くかもしれない何かしらの小説なりなんなりでこのテーマのやりとりが行われるかも。

限界世界少女 最終話 『ホワイトノイズ』

雑踏の中をあたしたちは歩いていた。

 

雑踏。

 

あたしにとっては。

 

透明人間が街にあふれていた。

 

相変わらず触れられないし、声も聞こえない。

 

それでも活気があることは十分にわかった。

 

それはともかく、あんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだ。

 

『裸になりたい』なんて言ってるが、止めないと本当に脱いじゃいそうな勢いだ。

 

心配になってくる。

 

「で、でも・・・!

これだけ人いないと・・・、何しても恥ずかしくないよね!」

 

そう言ってあいつは階段を駆けあがった。元気だ。

 

「ねえ、なずなーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

流石に苦笑いをしてしまう。

 

急に立ち止まったせいで、後ろを歩いていた人にぶつかられる。

 

 

迷惑そうな顔と目が合う。

 

 

がやがや。人の声。

 

ぶーん。車の音。

 

ぴっぽー。信号の音。

 

ちゅんちゅん。鳥の音。

 

風の音、水の音、空の音、太陽の音、靴の音、人の音、命の音、世界の音。

 

ありとあらゆるノイズが鳴り響く・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段の上にあいつの姿は無かった。

 

 

 

 

限界世界少女 第6話 『ねえ、なずなーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』

わたしとなずなは街を歩いていた。

 

道路も壁もぜんぶまっさらだった。

 

新しくできた道を散歩した時を思い出した。

 

黒いアスファルト

 

白い電柱。

 

わりと、好きだ。

 

街にはわたしとなずな以外誰もいなくて、

 

わたしたちのための街って感じがした。

 

普段人でごったがえすような場所に誰もいないのは新鮮でなんだかすっごい気持ちよかった。

 

深夜2時にコンビニに行くときの気持ちよさかもしれない。

 

人がいるべき場所に人がいないということほど気持ちいいものはない。

 

「裸になりたくなってきた」

 

「は?」

 

口に出てたとは思わなかった。

わたしの赤い頬となずなの白い目。

紅白だ。めでたい。

 

「で、でも・・・!

これだけ人いないと・・・、何しても恥ずかしくないよね!」

 

誤魔化す。

 

「ねえ、なずなーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

大声で叫んでみる。

 

びっくりしているなずなは新鮮だ。

 

楽しくなってきたかもしれない。

 

もうこの世界には、

 

わたしとなずなしかいないのかも。

 

思えば今までわたしは人目を気にしてばかりいた。

 

人からわたしがどう見えるのかばかり考えていた。

 

ここでこうするのはヘンじゃないか?

 

ここで手を上げたらかしこぶってると思われないか?

 

ここでこれ読んでたら笑われないか?

 

目立たないように。

 

見られたくない。

 

わたしのことを考えられたくない。

 

ただの誰でもない誰か。

 

視界に入ってもわたしで視線が止まらないでほしい。

 

透明人間になりたい。

 

そんな生き方ばかりしていた。

 

誰の視線も気にならないのは初めてだ。

 

今人生で初めて、わたしはわたしという存在を世界にさらけ出している。