第二話 病室にて
深い深い海の底。
漂うあぶく、三つのあぶく。
やがてあぶくのうち二つは水にとけてしまう。
残った一つはやがて水面にたどり着き――
――そして私は病院で目を覚ました。
「・・・これ以上もう、思い出せない」
「仕方ないですね。今日はもういいです。
また今度聞かせてください、姉さんのこと」
「うん・・・」
西風ミユ。西風ユウの妹。
事故から一ヶ月、いまだ退院できずにいる私に毎日欠かさず会いに来る唯一の人間。
そして私に残酷な事実を伝えた人間。
そう、残酷な事実。
私が乗っていたバスの乗客は、私以外全員死亡したという事実。
私だけが生き残りであるという事実。
ユウも、リンも、死んでしまったという事実。
事実、事実、事実!
ありとあらゆる残酷な事実が私の精神を貫いてゆく。
たかだか十五年しか生きていない私にはとても荷が重すぎる事実だ。
いや、たとえどれだけ生きていたとしても、こんな事実到底背負いきれるものではないだろう。
唇を噛む。強く、強く、出来るだけ痛みを感じようとする。
痛みだけが私の目を事実から逸らさせてくれる・・・
唇から血を流す私を、西風ミユは静かに見下ろしていた。