第七話 宿題
「ただいま~」
「我が家」に帰った時には言わない言葉を、ミズキの部屋を訪れるときには口にすることが当たり前になっていた。
「おかえり」
「宿題はちゃんとやりましたか?」
「うん。ちゃんと観たよ。
難解だったけど面白かった。夢の中でさらに夢を見るっていうギミックが面白かった」
映画『インセプション』監督はクリストファー・ノーラン。
今日はミズキに、この映画を観てもらった。
「あのこま、倒れると思います?」
「それは・・・考える意味、ないと思う」
「そうですね。明示されないからこそ美しいんですよね」
古城戸ミズキはあらゆる気力を失っているのか、生命維持に必要な最低限の食事と睡眠、そしてシャワー以外自分の意思で何ひとつ行おうとしない。
私が学校にいる間ずっとふとんの上でうずくまっているようでは、ミズキの心は回復しないに決まってる。
そこで私は「宿題」を出すことにした。
私が学校にいる間、ミズキには映画を観てもらう。
学校が終わったら私はミズキの部屋を訪れ、映画の内容や感想について語り合い、
新しい宿題を出す。
これは絶対ミズキのためになると思ったし、それに家にできるだけいたくない私としても好都合だった。
すくなくとも私にとっては、毎日の楽しみの一つとなっていた。
明日は『ガタカ』を観てもらおうかな。