第八話 姉
姉のことは好きじゃなかった。
姉は明るくて、元気で、誰からも好かれていた。
馬鹿っぽい言動をしてるくせに勉強はしっかりできるし、
運動も得意で部屋に飾られたトロフィーや賞状の数を数えるには少し骨が折れる。
そんな姉を両親はとても愛していた。
一方、妹の私はというと、
人付き合いが苦手だし、
姉より落ち着いてるくせに姉ほど勉強が出来ない。
運動も得意ではなかった。ゴールテープを切ったことは一度だってなかった。
そんな私を両親は愛していただろうか。
愛していたかもしれない。だとしても、それは小学六年生の冬までだろう。
姉と同じ名門中学、その合格者一覧をいくら探しても私の受験番号が見つからなかった日、その日両親は私を見放した。
誰もが姉に親しみを覚える。
当然だ。
なんでもできるくせに嫌味なところが無い。
親しみやすくて誰とでも会話が弾む。
きっと私だって例外じゃなかった、はずなんだ。
たぶん私は姉のことを好きだった。
姉がいつも私のことを気にかけてくれていたことも知っている。
それでも姉が苦手だったのは嫉妬だったのだろう。
親の愛を独り占めする姉に対する、嫉妬。
本当は私も姉と話したかった。
本当は一緒に遊びたかった。
そのことに気づいたのは、姉が死んでからだった。
もう二度と姉に素直になることが出来ない今になって、姉のことが実は好きだったこと、もっと姉の前で素直になりたかったことに気づいた。
「喪って分かる大切さ」、陳腐な言葉だ。
そしてこの陳腐さこそが正しさの証左なのかもしれない。