わすれもの

日常系オリジナル小説です

第九話 副産物

問題。

 

両親の愛を独り占めしていた姉がこの世を去った今、

 

私はその愛を代わりに受けることになったか。

 

回答。

 

いいえ。

 

 

 

両親の愛は姉とともに喪われてしまった。

 

西風ユウが死んでから、両親の関係は冷え込み喧嘩が絶えなくなった。

 

彼らは決して口に出さなかったが、

その顔にははっきりと

 

「死ぬのは、かわいい長女ではなく出来損ないの次女だったらよかったのに」

 

そう書いてあった。

 

一分でも、一秒でも、家にいる時間は短ければ短いほど良かった。

 

あの家の空気を吸っていると、胃袋の中の重い鉛の塊がどんどん大きくなるような錯覚を覚えるから。

 

だから古城戸ミズキの面倒をみるのは、家にいないための口実だった。

 

 

 

思わぬ副産物もあった。

 

私の知らない姉の話を聞くのは楽しかった。

 

ミズキもまた、友人の思い出話をしている間は楽しそうに見えた。

 

思い出の中の姉は、ミズキは、いつだって楽しそうだった。

 

私にはそれがこの世の何よりも美しいものに感じられた。

 

 

 

 

我が家より、古城戸ミズキの部屋の方が心休まる場所になるまでに、

 

そう時間はかからなかった。