限界世界少女 第3話『少しの揺れと軽い浮遊感』
「ありがとうございました~」
茶髪にピアス。
威圧感を覚える容姿に気おされるわたしと、にこやかな笑顔と朗らかな声の店員さん。
この人に一本道ですれ違うことになったら、わたしは思わず気配を消そうと無駄な努力をしてしまうだろう。
そういう人でさえも店員というロールを演じる時はにこやか笑顔・ほがらかボイスなんだ。
支払いを終え、帰る。
今日はわたしが払う日だった。
なずなとは頻繁にカラオケに来ている。
都度割り勘にするのも面倒なので交互に支払うことにしているのだ。
「あの男の人、ピアスばちばちでちょっと怖かった・・・」
「あの店員、よく見たら女だったよ。ああいうカッコいいお姉さん、憧れるな~」
びっくりして振り返る。
「・・・あれ?」
店員さんの姿はどこにもなかった。
「何してんの? エレベーター閉まっちゃうよー」
あわてて小走りで乗り込んだ。
少しの揺れと軽い浮遊感。
エレベーターに乗るときいつも考える。
この小さな空間の外側には何もないんじゃないかって。
無理やりこの扉を開けてみたら、
そこには涯てのない真っ暗闇だけがあるんじゃないかって。
永劫。
永劫この中に閉じ込められるとしたら、
安全だけしかないこの小部屋の中で永劫を過ごすか、
死だけしかない真っ暗な宇宙に飛び出すか、
どちらを選ぶだろう。
一瞬の体を押し付けられるような感覚。
扉が開く。
「あ」
宇宙が・・・
「宇宙?」
なずなの怪訝な顔。
扉の外には宇宙なんてなかった。
白い空と人ごみ。
ただの現実世界。
そりゃそうだ。