わすれもの

日常系オリジナル小説です

限界世界少女 第2話『引け目』

なんだかんだ3時間歌ってほどよく疲れたわたしたちは忘れないように伝票を持って部屋を出る。

 

「ん?」

なずなが立ち止まる。

「なんだろ」

受付はなんだかちょっとだけ騒がしかった。

「ちょっと待ってて」

なずなはぼうっと立っている人に声をかけた。

「人集まってますけど、なんかあったんですか?」

 

こういう時臆さず見知らぬ人に声をかけられるなずなは、わたしから見ると異星人だ。

人見知りで、わからないことがあっても人に聞けない、極力自分の中で答えを探そうとするわたしと、考える前にまず人に聞くなずな。

『だって、効率が良いじゃん? 目の前にすでに考えた後の人がいるなら、あたしがわざわざ考えるのは無駄でしょ』

とか言っていたっけ。

無駄。

無駄かあ。

それは人によると思った。

思考にかかるコストと、見知らぬ人に声をかけるのにかかるコスト。

わたしにとっては前者は問題にならず、後者は膨大だ。

なずなにとっては逆なんだろう。

だから引け目に感じる必要はない、そう自分に言い聞かせたっけ。

 

「あれだってさ」

「あれ?」

「そう。店員、どこにもいないんだって」

「店員さんが? 呼び鈴鳴らした・・・よねそりゃ」

「もち。中覗いたりもしたけどどこにもいないらしい。

それで本社に問い合わせして、別店舗から店員来てもらってるとこだって」

「大変だね。・・・どうする?」

 

『どうする?』って、良くない言い方。

丸投げ同然で申し訳なくなる。直したい。

 

「どうせフリータイムだし、戻んない?」

「賛成」

 

そんなわたしの丸投げを全然気にもしないなずな。

いつも感謝してる。